使命(ミッション)とあるべき姿(ビジョン)
何のために事業をするか
後継者として事業を受け継いで事業展開していくためには、先代から引き継がれる経営理念の再確認が必要です。社会の一員としての社会に提供する価値は何か、またその使命が環境変化に富んだ今の社会に適合しているか、またビジョンはこれからの企業の方向性としてふさわしいものかどうか、など再確認することが必要です。先に学んだ通り、経営理念が明確になっていないと企業の軸がブレてしまい、問題を引き起こす原因となってしまいます。
経営理念を再確認して、明確になったら、それを組織内に完全浸透させ、あらたな企業文化を組織内に創りだします。組織内完全浸透とは、すでに触れたように、経営理念に示された使命実現とビジョン達成のために、メンバーのそれぞれが、それぞれの部署でどのように行動するのかを考えさせ、行動させることです。各メンバーが考え、行動することによって新たな組織文化が芽生えることになります。
経営理念を組織に浸透させると同時に、後継者としては、それを外部へ発信することも大切です。外部への発信とは、後継者の事業を取り巻くステーク・ホルダー(利害関係者)へ自社の経営理念を知らしめることです。それによってステーク・ホルダーの協力も得やすくなります。(ステーク・ホルダーとしては、一般的に、顧客・消費者、取引先、株主、行政、業界団体、従業員、金融機関、地域社会・自然環境などを考えるとよいでしょう。)しかし、経営者としては、常に自身の行動が自社を取り巻くステーク・ホルダーにどのような影響を与えるかを考えて行動することが大切です。このあたりは、また会社存続のポイントあたりで改めてみていきたいと思います。
上記のように簡単にステーク・ホルダーについて定義してみましたが、近江商人の行き方「三方よし」は、日本古来のすばらしいステーク・ホルダーの考え方であると思います。すなわち、「売り手よし、買い手よし、世間よし」という考え方で、売り手にとっても、買い手にとってもハッピーであることが、世間=社会がよくなることにつながらなくてはいけない。さらに、京都呉服商には「客よし、職人よし、世間よし」つまり、お客さんにとっても、従業員にとってもハッピーであることが、社会全体がよくなることにつながらなくてはいけない、という考え方です。今、これらの三方よしが日本の社会の中に根付き、活かされていたら最近数多く発生している行政や企業の不祥事は起こっていない、と思うと残念でなりません。もう一度、われわれの先達の教訓をぜひとも後継者には活かしていただきたいと思います。
将来、どのような会社にしたいのか
特に事業後継者の場合には、経営ビジョンを組織内に浸透させ、これから自社がどのような方向へ向かうのかを明確にメンバーに知らしめる一方で、金融機関や取引先など外部に対しても明確に理解を求めておくことが大切です。そうすることによって、ステーク・ホルダーが新たな経営者に協力しやすい体制が創られていきます。
さらに経営ビジョンが明確になっていると、ビジョンと現状とのギャップとして、「問題」を捉えることが容易になり、その問題を解決するための「課題」を形成し、目標を設定・実行計画の作成が容易になります。つまり、問題―課題形成―目標設定―施策策定―実行のプロセスのノウハウが組織の中に出来上がり、問題意識(気づき)の高い組織が出来上がります。多くの日本の組織の中に「気づき」が得られていないのは、たぶんに組織の長が自身のビジョンを明確にしていないことに起因していると思います。つねに「気づき」の得られる組織には、改善ポイントが見出せますので結果として組織が活性化されていきます。後継者にとって、組織のメンバーの「気づき力」を高めることは重要であり、またその根源が明確なビジョンにあることを忘れてはなりません。