収益をあげる設備投資
あなたの会社では、投資の目的が明確ですか。単に設備が老朽化したからという理由だけで投資していませんか。また、投資を考える際、生産の外部委託など投資しないで済む策を考えていますか。さらに投資する際に、その事業から撤退する際のことも考えていますか。
通常、会社が投資する目的には、省力化・合理化、新規事業部門への進出、既存設備の維持更新、既存事業部門の売上拡大などの目的があります。新たな投資をするときにはその目的を明確にして、投資額に見合う収益の確保ができないと投資の意味はなくなります。
ここで取り上げる設備投資は会社の成長を考えて行われます。従って、新たな設備投資を行う時には、しっかりと自社の成長の方向性を捉えたうえで、そのために何が必要かを考え、設備投資を行うことが求められます。
東京に本社を持つ精密部品を製造するA社は、その製品の大半を山形にもつ自社工場で製造しています。かつては特殊な技術で市場を席巻してきましたが、近年、開発途上国や国内同業他社の追い上げもあり、苦戦を強いられています。ある日の幹部会議で、工場長は「設備が老朽化しており、設備をすべて更新したい」と強く主張し、社長もその主張を渋々認め、多額の資金をかけて工場設備を更新しました。その結果、あらたな借入金が生じ、財政状態がひっ迫して経営難に陥ってしまいました。
単なる「設備の老朽化」を理由に設備投資をする企業が後を絶ちません。社長であれば、単に工場長の考えに従って設備投資をするのではなく、ここでまずは、「設備投資しないで済む方法あるいは投資の負担をもっと減らす方法はないか」「その設備投資でどの程度のキャッシュを獲得できるのか」「その設備投資で新たな市場や製品開発につなげられないか」、さらに「その事業が縮小した時その設備をどうするか」と考えることが絶対必要です。
「設備投資をしないで済む方法はないか」と考えられれば、外注やアウトソーシングすることで、生産の量を増やすことができるし、自社にはない周辺技術を活用することも可能になります。また「その設備投資でどの程度のキャッシュを獲得できるか」という社長としての発想が出れば、自然に資産回転率を意識することができ、投資額の何倍の年間売り上げを確保したらよいか、という判断につながります。
また、「その設備投資で新たな市場や製品開発につなげられないか」と考えられれば、4つの成長の方向性に気づき、そこから新たな戦略を考えることが可能になります。その4つの成長の方向性の一つは、今の自社の商品・サービスを今の顧客や市場にもっと売っていくことで市場シェアを拡大する「市場浸透」という考え方です。二つ目は、今の自社の商品やサービスを新しい顧客や市場に売っていこうとする「市場開発」という考え方です。三つ目は、新しい商品やサービスを開発して今の顧客や市場に売っていこうとする「製品開発」という考え方です。4つ目は、新しい商品やサービスを新たに開発して、これまで経験のない新たな市場で売っていこうとする「多角化」です。さらに「事業が縮小した時」に無理のない撤退を考えて投資をすることが必要です。
このA社の社長は、渋々とはいえ、社長としての自分の考えに全く戦略性がないために、工場長の主張を受け入れてしまい、会社としての成長の機会を逃してしまったばかりか、自社の業績まで悪化させてしまったのです。
すでに「財務諸表の理解」の項で述べましたが、設備投資を決断するときには、投資額の回収を、キャッシュ獲得をベースに考えて判断することが社長として重要になります。