休眠顧客の活用

業歴100年を超える精密機械部品販売業(自社が設計したものを顧客から注文を受けて下請けで製造し販売するファブレス企業)A社の社長からの経営相談です。数年前まで6億円ほどあった売り上げが取引先生産拠点の海外移転で売上が半減したので何とか、事業を再生したい。決算書を拝見すると確かに債務超過に陥っており、いつ倒産してもおかしくない状況です。取り急ぎ、金融機関を訪ねて借入金返済の1年間の停止をしたうえで人員整理を含めた再生に入り事業の見直しを行うことになった。

この社長は売上高の激減の原因を取引先の海外移転としていますが、私から見れば、これは売り上げ激減の責任を他に求める世間体の良い逃げ口上で、社長のこの考えを切り替えない限り、この企業の再生はありません。

社長に「当社は古い企業なので休眠顧客が数多く存在するはず。これまで取引のあった企業をすべてリストアップして欲しい」と告げて、次回の訪問日に提示してもらいました。そのリストの中には当然、既に存在しない会社もあったので、それらを整理して現在も活動している企業10社に絞り込み、それらの企業を訪問することにしました。その時、社長に考えさせたことは「相手は元気に活動しているのに何故今、自社との取引がないのか」です。ここで社長が理解してもらわなければならなかったことは「相手の欲しいものを自社が提供できていないから今、当社と取引がない」という、ただ一つの理由です。ここにこの企業の再生のポイントがあるのです。「取引先生産拠点の海外移転」を社長が考える売上半減の理由とさせてはいけないのです。

この10社を社長自身が訪問することで「売上半減の真の理由」が社長自身に見えてきたようです。社長に見えてきた真の理由とは「相手の欲しいものを自社が提供できていないから今、当社と取引がない」というポイントです。社長自身がこれに気づけば、あとは社長自身が解決できます。この企業も10社を訪問し、既にそのうち3社との取引が再開でき、半減した売り上げも少しずつ回復し始め、今期の決算では依然として累積損失は残るものの、債務超過からは脱却できそうです。この復調傾向については、社長自身から金融機関に説明し、滞っていた借入返済を再開したことは言うまでもありません。

B社は今期決算で43期を迎える企業で事業承継の支援を依頼されました。事業承継というと税理士や公認会計士などによる財産承継が重視されがちですが、財産承継は法律等に則って実行するだけで極めて簡単なのですが、企業にとって本当に難しく大変な事案は経営承継です。すでにみたように企業は常に成長することが求められています。当然のこととして、事業承継することで、さらに企業を成長・発展させていく必要があるのです。

事業承継を支援する際に私は必ず、承継の時期を「〇年〇月〇日に社長を後継者に交代する」と明確にして支援を開始します。承継時期を明確にすることでやるべきことのすべてが明確になるからです。事業承継する際にも大切なのは後継者による「休眠顧客の掘り起し」です。先の事業再生の事例でみたように新たな成長のシーズがここに眠っているからです。ここでも後継者に、当社がこれまで取引があって今は取引がない企業をリストアップさせ、まず、今も活動的な企業50社程度に絞り込み、後継者自身に「相手の欲しいものを自社が提供できていないから今、当社と取引がない」の視点で巡回させ、相手の欲しいものと自社提供するものとのミスマッチを気づかせ、社内の改革を事業承継するまでに徹底して実行させました。結果として、社内の技術を進歩させることもでき、もちろん、業績の向上を図ることも出来ています。

企業には必ず「休眠顧客」が存在し、その休眠顧客は老舗企業ほど多いのが事実です。休眠顧客は企業にとっての「眠れる鉱山」です。