標的市場の明確化
(1)セグメンテーション(市場細分化)
セグメンテーションとは、市場をなんらかの基準で、同じ性質を持ったいくつかのグループに分割(セグメント)することです。これまでのマス・マーケティングでは、大量生産・大量販売による画一的な商品の販売を目的としていたために、すべての顧客を標的市場としていました。しかし現在の市場は成熟化し、様々な価値観をもった顧客のニーズを多様化し、従来のマス・マーケティングでは対応できなくなりました。そこで生まれたのが、市場細分化という手法です。市場細分化の基準で分割されたそれぞれの市場は市場セグメントとよび、市場セグメント内はある程度の同質性をもっており、一方、セグメント間は異質なものになります。セグメンテーションによって、企業が自社にふさわしいターゲットを発見し、そのタ-ゲットに対して価値を提供することで、あらたな事業展開を図ることは重要です。
市場細分化によるメリットは以下のようになります。
①ある市場セグメント内のニーズに適切な対応が可能になる。
②マーケティングにかかるコストの有効配分が可能になる。
③細分化された市場の1つひとつのシェアが向上し、その結果として市場全体の中のシェア拡大が期待できる。
1)市場細分化の条件
以上のことからも、市場細分化とは、マーケティングを効率よく展開するために、同じニーズであろうと思われる小集団を切り分ける活動ですが、実際にはどのように細分化すれば自社のマーケティング戦略にとって最も有効であるか、その基準を設定することは容易なことではありません。
コトラーとアームストロングは、細分化された市場が有効である条件を次のようにあげています。
①測定可能であること 設定された市場セグメントの規模と購買力に関する情報が存在し、容易に測定できること。
②到達可能であること その市場セグメントの顧客に対して、メディアなどを通じて容易に接近したり、効果的に到達できたりする手段があり、商品提供できるチャネルがあること。
③一定以上の規模があること 規模、購買力が採算に見合うロット数を確保できること。
④実行可能であること 自社が活用できる効果的な経営資源を保有し、プログラムを実行できること。
2)市場細分化の基準
市場細分化の基本的な基準としては、人口統計的基準、地理的基準、心理的基準、購買者行動基準などがあります。
①人口統計的基準 典型的な類型としては、性別、年齢、学歴、職業などがあげられる。近年の高齢者の増加、結婚年齢の高齢化などによって著しく変化しているのがライフ・ステージで、ライフ・ステージという概念には、消費者としてだけではなく、生活者の視点が入っており、家族構成を中心軸としたものを、1)独身時代、2)家族形成期、3)子供が独立していく時期、と分類することができます。しかし今日、生活者のニーズの多様化で、同じ年齢、同じ職業でも、価値観、生活感が異なることが多くなっています。人口統計的基準の例としては、化粧品業界のカネボウが「ミス」「ミセス」などのライフ・ステージで細分化していますし、また、ホテル業界では、いずれも顧客の職業で細分化をはかり、ホテルオークラの「国内外のエグゼクティブ」、ワシントンホテルの「出張ビジネスマン」などがあげられます。
②地理的基準 地理的基準とは、市場の置かれている地理的な違いによって区分するものです。たとえば、都市と農村の生活様式の違いによりニーズの違いも生じるだろうし、古くから生活の知恵として、いろいろな場面で利用されている。また関東と関西では食文化や食習慣が異なり、関西ではうどん屋が、関東ではそば屋が多いこと、またそのつゆも関西では色が薄く、関東では色が濃いことなどの違いがあります。
③心理的(サイコグラフィック)基準 心理的基準とは、パーソナリティー、生活価値観、ライフ・スタイルなどによる基準のことで、このなかでライフ・スタイルとは、「生活者の生活価値に基づいて形成される成果圧行動体系もしくは生活パターンや生活のしかた」を意味し、消費者の価値観、心理的・社会的・行動的側面によってライフ・スタイルが形成され、生活者の人口統計的な特性とは直接結びつかないことが多い。例えば、鉄道会社の席割は「グリーン車(快適志向)」「普通指定席(堅実志向)」「普通自由席(経済重視)」となっています。
④購買者行動基準 購買者行動基準とは市場を顧客の購買行動や使用行動によって区分するもので、ベネフィット、使用状況、ロイヤルティなどによる区分基準です。
ベネフィットとは、ターゲットとなる顧客が商品に求める機能や効用のことで、たとえば商品が自動車の場合であれば、自動車を購入することによって得られるベネフィットは、移動や運搬、家族団欒、ステイタスなどになります。
資生堂は「使用意識」「使用目的」「使用量」などの行動基準で細分化し、花王は皮膚科学に関する研究成果を生かして、「保湿」「UVカット」「美白」などのベネフィットによる細分化を図りました。この基準は、実態調査によってデータを入手することができます。
(2)ターゲティング(標的市場の選定)
ターゲティングとは、自社が最大限に能力を発揮し、競争優位を確立できる市場に狙いを定めるプロセスをいいます。その市場で十分に力を発揮する為には先にセグメンテーションで細分化した市場の特性を十分に把握することが大切です。そして細分化された市場が十分に収益を上げられる市場かどうかを見極め、その市場に自社がどの程度投資をして、どのくらいの収益を上げることができるのかを予測する必要があります。また、その市場の規模についても、将来の発展性・成長性など市場の魅力度を考えて検討することです。
マーケティング戦略では、何らかの属性等で市場を細分化していき、その細分化された市場での顧客ニーズを確実に捉え、そこに自社の製品やサービスを提供していく、ことが成功要因となります。
細分化された市場のうち自社がマーケティングを行うターゲット市場を選定する際、以下の通り3つの分類パターンがあります。
1) 無差別型マーケティング
企業が市場のセグメントの特性の違いを無視して、単一のマーケティング・ミックスによって市場全体をねらうマーケティング活動を展開する戦略です。圧倒的な競争優位性をもつ一部の商品に活用されますが、すべての観客を満足させる商品およびマーケティングは現実的には不可能に近いです。
2) 差別型マーケティング
企業がニーズの異なる複数の市場セグメントをねらい、それぞれ異なるマーケティング・ミックスを構築し、マーケティング活動を展開する。経営資源に余裕のある大企業が採用する戦略です。最大の売上が期待できるが、個別のマーケティング・ミックスを作成するため、コストが大幅に上昇します。
3) 集中型マーケティング
企業が競争優位性のある特定の市場セグメントに絞り込んで、最適なマーケティング・ミックスを構築し、マーケティング活動を展開するもので、限られた経営資源を有効活用でき、ニッチャー企業などがよく用いる戦略です。
また、標的市場を選定のする際の判断要因には以下のようなものがあります。企業にとって魅力的で成長機会が見込める市場を選ぶことはたいへん難しいことであり、またそれは長期にわたってその後の戦略や実績に影響を及ぼすことになります。
4)標的市場の判断要因
以下の判断要因を総合的に分析し、状況に応じて標的市場を適切に変更していく必要もあります。
①市場規模 市場規模は大きいほうが望ましいが、大きい市場ほど競争が激しく、安易に参入するとその競争に巻き込まれることにもなりかねない。現時点では市場規模が小さくても、将来的に拡大することが見込まれる市場のほうが魅力的であるといえる。
②コア・コンピタンス 選定する市場において、自社のコア・コンピタンス(自社のコア能力)が発揮でき、競合他社と比較して優位性を持っていることが必要である。
③参入障壁 魅力的な市場で、そこに自社の強みがあると思われても、それ以上に大きな障害(障壁)がある場合、は市場への参入は難しい。
④競争環境 競争企業がすでに市場での地位を確保している場合には、市場の魅力は相対的に低下する。しかし、自社のマーケティング戦略によって、差別化を図れるのであれば、その市場を選択する場合もある。